ゆりなさんの心は自由に羽ばたく!~周囲からの「哀れみ」を乗り越えて~
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2019年7月13日,マジカルトイボックス第48回イベントの講師を仰せつかっておりましたので,はりきってお話してきました。
(追記)2019.7.21
Kintaのブログ
マジカルトイボックス第48回イベント参加者アンケートありがとうございました。
講演の相棒は小学校1年生の古川ゆりなさん。
ゆりなさんは先天性ミオパチーという,全身の筋力が低下する難病を抱えています。
様々なタイプがありますが,全国に3,000-5,000人程度がいるとのこと。
残念ですが,同病の多くの子どもたちは,ただ天井を見つめながら過ごしていると思われます。。。
今回の相棒役は,先月のさくら会ミニセミナーに引き続き2回目!
やはり,多くの人にゆりなさんを見てもらうことが,ゆりなさんにとっても参加者のみなさんにとっても,すばらしい機会になると確信したのです。
やや急な依頼だったのですが,私単独ではなく相棒として参加をお願いしました。
一見すると,いかにも呼吸器をつけた子どもといった感じで,すれ違う多くの人にとっては「かわいそう」「頭はちゃんとしてるの?」などと思うに違いありません。
そう口に出さなくても,自分と同等の知的能力があるだろうなんて,ちっとも思っていないでしょう。
でも,ゆりなさんは,小学校入学前にすでに小学校1年生の算数を終えているのです。ご家族の継続的な教育の賜物です。
そこに至るまでの苦労は多かったようで,お母さんのこんな言葉が印象的でした。
自宅での学習中,訪問看護師からは,哀れむような目で見られていました。
ゆりなママ
多分,こんな学習はやってもムダだろうけど,お母さん頑張ってるし,見守ろうというような。。。
ママさんは,周囲からの哀れみの目にめげずに,ゆりなさんを信じて様々な経験を積ませました。
ご家族の日々の努力の甲斐もあって,ひらがなの学習もバッチリ。
今ではタブレットを駆使してあいさつや会話も可能です。
以下には,イベント当日のスライド(古川家作)を使わせてもらい,スーパー呼吸器少女のゆりなさんを紹介いたします。
きっと,同じ悩みを持つ方の参考になるでしょう。
同病の多くの子どもは,入院したままの生活を送っているのではないでしょうか。
その環境では,医療的ケアのみが淡々と行われるのみで,コミュニケーションスキルを磨くこともできず。。。
そんな様子は,全国の「こども病院」でよく見られる光景です。
その点,ゆりなさんは早い段階で自宅に戻ることができたのはラッキーと言えるでしょう。
伝わらないことが続けば,伝えることを諦めてしまう。。。
いわゆる学習性無気力という状態になってしまいます。
ゆりなさんの家族は, アナログな方法からタブレット等のICTを活用した方法まで,できることをすべてやりました。
そのパワーはすごいものです。
ご家族のすばらしい工夫によって,ゆりなさんの生活環境をどんどん改善していきました。
まず特筆すべきなのは,自作スプリングバランサー!
まだまだ小さな軽い腕ということもあり,ゴム紐でうまくバランスできています。
もしこれが無ければ,ゆりなさんのコミュニケーション環境は大きく違ったものになっていたことでしょう。
この動画を見れば一目瞭然!
あいさつが相手にしっかり伝わるようになると,相手の反応もかわってきます。
さらに,一方通行のコミュニケーションではなく,双方向のコミュニケーションを獲得することで,ゆりなさんの言葉は見違えるように増えていったといいます。
たとえ機械を使ったコミュニケーションでも,きちんとフィードバックのあるコミュニケーション環境は人間を大きく成長させます。
それはどんな人も同じ。
知的障害があろうとなかろうと。
その点において「機械は冷たい」と避けるのではなく,身体機能を代替するものであれば積極的に使うべきであることは確かでしょう。
しかしながら,支援学校等ではその活用は十分ではありません。
現在,ゆりなさんはタブレットを活用して,シンボルや文字入力をはじめとして,AIスピーカーを使った環境制御まで行えるようになっています。
AIスピーカーは日々進化していますので,今後の機能アップによっては,重度障害者の生活に不可欠なものとなるかもしれません。
AIスピーカーをドロップトークや指伝話を使ってコントロールしており,ここでは当日の予定や現在時刻を確認したりしています。
ほう,小学校1年生でここまでできるのですね。
AIスピーカーは,重度障害者にとっては大変便利なものです。
スマートリモコンと連動させればエアコンや室内灯をコントロールすることができます。
赤外線のリモコンが付いている家電ならすべてコントロールできるので,ゆりなさんのようにあまり動けない子どもでも,家の中で役割を持つこともできます。
この動画の撮影時,幼稚園年長さんの5歳半でした。この歳なら,操作方法がきちんと確保されていれば十分できるのです。他の子どもでも同じことでしょう。
テレビはどうしても一方的に観せられるだけになりがちですが,スマートリモコンをうまく使えば,録画した番組を自分で選ぶことも可能になります。
もちろん,自分でチャンネルを変えることも録画することもできます。
自宅ではテレビを見る時間は多いでしょうから,自分でテレビを操作できる環境は意外と重要です。
大人の重度障害者などでも同様ですね。
AIスピーカーで多少の会話ができるとしても,しょせん相手は機械です。
本当のコミュニケーションの楽しさは,相手が人であってこそ。
そんなことは当たり前ですが,重度障害者だとそれさえも叶わないことがあります。
やはりここはテクノロジーを活用するのがセオリーでしょう。
適切な操作方法が確立すれば,ディスプレイの向こうには無限の可能性があります。
ゆりなさんの場合,自作スプリングバランサーと厳選したスタイラスペンでした。
これらを使うことで,タブレット操作を自由に行えるようになったのです。
これで離れた人とのコミュニケーションも,当たり前のように可能になります。
普段,ゆりなさんのまわりには大人が多いので,同世代の子どもとの交流はとても大事でしょう。
それが離れた人であっても。
ゆりなさんは,LINEを積極的に活用してコミュニケーションスキルを日々磨いているようです。
インカメラでこっそり写真を撮ることも(^^)
子どもはイタズラが大好き。
イタズラができる環境があるというのは素晴らしい!
創作活動も旺盛ですね。
独特のフォントは,これはこれでオリジナリティーの高いものとなります。
でもほんと上手に文字を書きますね。
今後は絵画や書道もできそうです。
現在のテクノロジーを活用することで,つい20年前では夢物語だったことが簡単にできるようになりました。
障害者支援の視点に立つと,20年前ならどんな支援機器も適合できない身体障害であったも,今なら使える可能性が十分にあるのです。
視線入力システムやタブレット端末などはその好例でしょう。
そして,これからもテクノロジーは進化します。
しかし,それらが使えるかどうかは,まわりの人が当事者の可能性を信じられるかどうかにかかっています。
こんなにも豊かな心を持ったゆりなさん。
テクノロジーをうまく活用できたからこそ表現できました。
しかし,残念なこともあるのです。
これだけのスキルがあっても,ゆりなさんの支援学校(養護学校)ではうまく活用できていないという現実。。。
タブレットの活用など,比較的新しい方法については,支援学校教諭のスキルが当事者に追いついていないのです。
全国的な問題ではあるものの,これはあえて,教員らの怠惰と言うべきでしょう。
子どもにとってこれだけ有用であり,かつ人生に渡って必須であるとも言えるのに,そう難しいものでもない機器を使えない&使わないというのは,怠惰以外に何と言えるのでしょうか。
小学校1年生幼稚園の年長さん(5歳半)が使える機器を大人の教員が使えないとは,どんな理由を持ってきても言い訳にはできないと思うのです。
機器を使いこなして生き生きとしたゆりなさんの姿を見れば「ちょっとデジタルは苦手で~」とは言えないはずなのです。
最後に,ゆりなママと私からの一言。
どんなに重い障害のある子どもでも,就学した以上は教員こそがその子の可能性を信じて,この世の中で最適と思われる支援方法で能力を伸ばしていって欲しいものです。