マウスで変わる人生
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ATACを中座して、滋賀県は彦根市へ。
京都国際会館から一時間半のみちのり。
遠位型ミオパチー患者会の会長である辻さんを訪問です。
新幹線の疾走音がかすかに聞こえる、のどかな住宅街にありました。
近くには彦根城。今でも豊かに水をたたえるお堀が美しいです。
遠位型ミオパチー患者会
http://enigata.com/index.html
辻さんは遠位型ミオパチーを長い間患っており、今では車いすでの日常生活です。
そして、その進行によりマウスがたいへん使いにくくなっています。
それでも、ソフトウェアキーボードと厳選したマウスを駆使してPCを使っています。
[アドバイス求む!]難病患者のTさん(滋賀県在住)
いや、ただ使っているだけではありません。
辻さんは三十年を超える業務系システムの開発者。コンピュータのプロ。
辻さんの求める操作性はきわめて高いのです。
ただ、それは訪問後しばらくしてからわかったのでした。。。
私の未熟な経験では、神経・筋疾患の場合、主にスイッチの導入で機器操作の環境を整えるケースがほとんどでした。
それは、裏をかえせば、操作性は不十分であることは承知しつつも、かろうじて意思伝達方法を死守することに他なりません。
スイッチ適合がうまくいっても、ひとつのスイッチだけによる操作では、ふつうにマウスとキーボードを使うものとは比べるまでもないのです。
今回持参した数種類のスイッチ装置。
市場ではいずれも定評のあるものばかりですが、辻さんの求める操作性は望むべきもありませんでした。
特に、「ワンキーマウス」を紹介した自分は、まさに偽善者ともいえる行為でした。
確かに、これを有効に活用して意思伝達や趣味に活用している事例はたくさんあります。
間違いのないすばらしい機器です。
しかし、辻さんにはまったく紹介する必要のないものでした。
望んでいるのはプロとして必要な操作性なのです。
私は、まるで、一流の大工の棟梁に図工用の彫刻刀をすすめたに等しいものでした。
無意識のうちに疾患名でひとにくくりにし、必要な機器を選定していた自分がいたのです。
この疾患であれば、過去の成功例から「この程度のものでいいだろう」という。。。
疾患をみて、人を見ていなかったのかもしれません。
そこまで大げさではなくても、ご本人を目の前にしてさえ、希望する内容をしっかり理解しなかったことは事実でした。
(中略)
福祉情報機器は商売になりません。
使用者の個別性が強いことや、そもそも需要が少ないからです。
でも、辻さんのような機器使用における困難度は、ふつうの人の「デザインが気に入らない」というたぐいの困難(不満)とは比較になりません。
商売になるという理由だけで、困難を抱えた人のための機器は顧みられることなく、デザインが違うだけの機器が必要量以上に大量に放流されています。
そして、その多くはゴミに。
商売にならないという理由だけで必要な支援機器が生み出せない、というのは社会の正しいあり方でしょうか。
「研究者にとって福祉機器の研究は評価されない」などと堂々と言えてしまう社会はあるべき社会なのでしょうか。
ふつうの人はマウスで人生は変わりません。
でも、辻さんはマウスで人生が変わります。
人間の持つ技術で十分対策可能です。
それをやらない手はないでしょう。